炎上事件簿

最近読んだ本の中で、類書がほぼなく、かつ、
非常に「現代さらりいまんのサブテキスト」と言って
差し支えない書籍があるので、紹介したいと思います。

『ソーシャルメディア炎上事件簿』(小林直樹 日経BP社)です。
 

ソーシャルメディアなど何もなかった1999年に起きた「東芝クレーマー」事件から、
現在、というか今年の6月まで(この本が出たのが7月)の、
いわゆる「WEBにまつわる炎上事件」を端的にまとめた本です。

筆者の小林氏が、日経BP社という、WEBと紙の中間に属するメディア企業の
ジャーナリストだったことが、この本の出版を可能にしたと言えます。
 
紙媒体(新聞社・出版社)の論調というのは、WEBサイト上に流布される言説とは
距離を置きたがるので、これまでさほど類書がなかったのでしょうが
(Amazonで見ると5冊ぐらいしかないですね)、
こうしてまとめられてあらためて振り返れば「こんなに炎上があったのか」という話ばかり。
しかも、どれも相当な危険性をはらんでいます。

ついでに言うと、事例画面がちゃんとキャプチャーされて残されていて、
図版として使用されており、この筆者が、10年以上も「炎上」に関して
きちんと取材を重ねてきたことを裏付けています。
「画面見ないとなんだかわからない」事例も多いですからね。
  

そして、今はUST中継やニコ動の中継が普及したので、
例えば、原発に係る東電会見などで「企業の広報体制の甘さ」というのは、
みんなが知るようになってしまったのですが、本書は、
そういう時代になったからこその「広報側の意識改革」も求めています。
(まぁ、危機管理ができてる会社には、大体「会見指南屋」がいるものですが)

もはや、皆が「新聞やテレビでは、はしょられた」以外のことも、
知りうるようになっておるのです。
蓋を開ければ「ネット社会」というのは……そういうものだったのです。

 
かつ、ここも重要なのですが、筆者はあえて「IT記者(物書き)としての主観」を
文中にほとんど入れていません。当事者への肩入れや意見は、極端に少ないのです。

それは「読み物としての面白さ」を担保しないことだろうが、と
一瞬思いがちですが、これが、あにはからんや、十分面白いのですね。
「事実だけでもこうなんだぜ。その次のことは自分で考えてみてよ」と、
筆者に問われているような気がします。

僕も過去に……WEBやメールで何度も「しくじり」をやり、
戦慄し、背筋が凍り、ちょっと詳細は書けないことばかり。
自戒も込めて読みました。

別な方のベストセラー『失敗学』じゃありませんが、
人は失敗(あるいはその疑似体験)からこそ学ぶ、と……。
 

本書は特にも「企業側の無知」による「WEBキャンペーン大失敗例」は、
非常に多く紹介しています。
従来の広告パターンやそのマーケティングには、
ソーシャルメディアでの宣伝は決して当てはまらないのに、
広報が単にそれを見誤って企画し、炎上まで行った例は、実は枚挙に暇がないのですね。
 

本書中の一番新しい事例は、今年6月にグリコがAKB48を使って
展開した「新メンバー 江口愛美プロモーション」事件です。ご記憶かと思います。

公開されるや、ファンがグリコの思惑を最初から全て見破ってしまい、
結果的にはそんなグリコの失態を、AKBメンバーの方が救ったという事実。

「ソーシャルメディアでの盛り上がりに期待する企画は、コントロール不能になるリスクを内包する」 
のは、限りなく「真」なのです。

 
また、ドミノピザがアメリカでの「不衛生ピザ作り」動画投稿事件を、
どうやって「奇跡的に穏便に納めたか」の事例と、
わずか1年半後に日本のドミノピザが、全く学ばずにWEBサイトでやらかした、
とてつもなくグレーな「投票捏造?」事件、またその
「事態収拾の仕方」(本社が圧倒的に上手く日本はド下手)の差は、
広報スキルの乖離を、如実に示しています。

加えて、かつての「オールスター川崎祭り」や「Timeの表紙田代まさし祭り」で
我々が認識した、「大量投票」事件の暗部は、今もなお随所で繰り返されていることも、
あらためて認識せざるをえません。

「投票企画」というのは、相当危ないプロモーションなようです。
炎上しろと言っているようなものなのですね。

かつ、ネット住民が、企画者のユーザー軽視(協力をリスペクトしない)には
大いに逆上することも、どうもきちんと認識している企業は少ないようです。

 
かたや、とにかく「謝罪スピード」こそは「炎上時の命」らしく、
例えばUCCの「ツイッター告知botがスパムまがい」事件は、
とにかく謝罪速度が速かったことで、批判が一転して称賛になったという、
すごく象徴的な事例として、挙げられています。

とにもかくにも、ネットプロモーションは、
広告宣伝としては、従来とは全く別の世界なのです。

これに関して小林氏の論は明確です。

「UCCのbotは、従来型の広告枠を買う発想で企画された。
フォロー、非フォローの関係さえ構築できていない段階でこの考え方は通用しない」のであり、

「テレビCMなら視聴率1%でも関東地区なら40万人にリーチするが、
1~2週間やそこらで告知効果や売り上げ増を求めるなら、ツイッターは全く向かない」
と、喝破しているのですね。

1年半ほど前、世にツイッター礼賛やビジネス活用マニュアル本があふれた時、
これを断言した人は、いなかったと思います。

「じっくり腰を据え、中長期で関係性を深めるメディア」がツイッターであるそうです。

国内企業のフォロワー数2トップは、ユニクロが16万、モスバーガーが17万。
せいぜいそんなものです。皆、勘違いしてるぞ、ということです

筆者はまた、ツイッターアカウントの運用に関しては、
外部に丸投げせず、企業担当者が運用することを推奨しています。
これは間違いなく、その通りなのではないでしょうか。
 

他に挙げられている事例としては、
エイベックスの「のまネコ商標登録」事件、
記憶に新しい「ユッケ社長逆切れ→後には土下座」事件などが興味深かったですね。
これらは、トップの責任転嫁(甘い詫びコメント)や、当事者意識の欠如が、
どんどん事態を悪化させていった例です。
 

また、バイトなどによる「気軽に情報を漏えいしまくり」事例も
大変多く紹介されていました。企業は危機感持て、と。

バイトが、漏らすべきでないネタを、友達に話す感覚でツイートして
バラした場合、今やそれは、ネット住民たちによって
何から何まで一気に解析され、あっという間に大問題になるよ、と。

そして今は、ガラケーからスマホの時代になっちまいましたんで、
あれさえあれば綺麗な写真撮影から動画投稿まで、大体のことはできちまうワケですね。
スマホは、出先からの投稿や何やらを、ものすごく容易にしました。
自宅でPCに向かわねば書き込みができなかった昔とは、また全く状況が違うのです。

 
かつて僕も、仕事でバイト連中を束ねるポジションにいた時、
「あそこのバイトは楽でチョー甘いわ。メシ付きだし。」
みたいなことを2ちゃんに書かれました。
同僚からのタレコミで、そのイベント初日の深夜に知りました。

本当は犯人を捜して即クビにしたかったのですが、
頑張って探ってはみたものの、2ちゃんゆえにうまく特定できず、
翌朝の朝礼時にバイト全員を集めるやいきなりブチ切れ、怒鳴り散らしたことがありました。

「仕事でカネもらうこと舐めてんじゃねぇぞこの野郎! 優しくしてりゃつけ上がりやがって!
テメェらそれでも大学生か! 恥知らず! 誰だ、名乗り出ろ! 
……大体解ってんだよ! 絶対見つけて親にも学校にも言うからな! 覚悟しとけ!!」

普段気弱そうにして、むしろイジメられてる小生のような奴こそ、
キレると、もう♪どうにも止まらない! ということで、
まじめに働いてるその他の学生諸君には大変悪いことをしましたけど、
まぁ結局、誰かまでは特定できませんでした。

書き込みは、すぐ止まりました。
そんな誰かに「バイト代」払って弁当も茶も出したかと思うと、今でも苦々しいですが。

しかし、この時には「ネット漏えいやられた当事者」として、
若者の「口の軽さ」、否「キー叩く軽さ」に戦慄しましたね。感覚がお気楽すぎます。
きゃつらと俺ら(30歳以上)は何か思考が違う。
学生時代から携帯をいじっていた連中と短期仕事する時は注意が必要ですよ、本当に。

 
また……本書には「例」としては出ていませんが、
僕にも以前、「ネット住民たちによって何から何までもが一気に解析され、
あっという間に大問題になる」一部始終をウォッチした覚えがあります。

僕は野球の千葉ロッテのファンでして……一昨年の秋、フロントと対立して
完全にフーリガン化した外野応援団に対し、西岡剛内野手(当時)がヒーローインタビューで、
涙ながらに、そういうのやめてくれと訴えたことがありました。

しかし、それは既に暴徒化していた外野応援団の火に油を注ぎ、
次の試合では早速、ある男が「西岡死刑」の旗を掲げたのです……が、
その画像がUPされると、ネット住民が黙っていなかった。

彼らの中にある「馬鹿な事を面白がりたがる感覚」と「個人悪を社会的に抹殺して満足したい」
という性は半端じゃないですから、その「死刑男」たるや、過去のHPがWEB魚拓でさらされ、
そこから出身大学名、個人名、今の勤務先まで即時に解析。
この速度は、下手なリサーチャーも探偵も、適いません。
しかも「足で稼ぐ」必要なんかまるでなく……。

ネット住人たちは、最終的には男の勤務先に電凸を繰り返し、
男はついに会社で詰問されたあげくに、退職を余儀なくされたそうで、
多分……ネット住人たちは大いに溜飲を下げたという……事件がありました。

ほんのわずかな間の出来事でした。
僕はそこ(男を退職にまで追い込む)に至るまでの
あまりの速さに、ポカーンとしました。

そりゃまぁ、「死刑」の旗を掲げた男はよくないのですが、
わずかな証拠で、何から何までがいっさいがっさい判明してしまうです。
全人口の2割しかネットを使っていなかった、12年前とは違うのです。

「居酒屋での会話で慎重になる者ですら、
ソーシャルメディアではなぜか脇が甘くなる」ということを、
筆者は警告していました。
 

とにかくもう、SNSというのはやばい、だからこそ
無知な企業やその広報、危機意識ない個人……気を付けてね、というのが
本書の肝、IT記者からの警告だったような気がします。

交通安全映画と同じです。事故を起こして人生が崩壊するドラマを見て、
戒めにしなさい、と……。あれと同じ効果の本だった、と思います。
 

もう一つ。
「J-CAST」「ガジェット通信」「テラフォー」「ロケットニュース24」など
(つまり独自取材せずネットからネタを拾うメディア)を甘く見るな、と書いたのも、
また本書の画期的なところでした。

僕も含め、あれらを「メディア」として重視してた人はそんなにいないと思うワケですが、
実際はああいう「引用報道機関」から火がついて炎上になりますし、
特にも「J-CAST」は「Yahoo! ニュース」と提携してるので、
あとは「Yahoo! ニュース」編集部の胸先三寸。

ネタ枯れの時期にたまたまトップページ掲載に選ばれたら、全てが終わるよ、という事実。
これは意識しておくべきでしょうね。
 

他にも、一見ツイート誤爆を装い「ポジティブ炎上を導いた巧妙な釣り」(無印良品)に、
ご存知「九州電力やらせメール」事件、「グル―ポンスカスカおせち」事件、
ついでに「不用意投稿で人生棒に振らないチェックリスト」
(小生に向けて書かれてるようなもんです)、
「企業も社員の行動指針にSNSでの振る舞いを規定すべき時代へ」、と、
本当に興味深い話が満載でした。
 

SNSの普及やWEBプロモーションは、1年半前にいろんな人が騒いだほど、
バラ色なものじゃなかった。それどころか、炎上は毎日起きている、ということを
ケーススタディしてくれた本でしたね。
とにもかくにも一読を勧めたいです。それも、今。
 
 

長く書きましたが、最後に、本書にある
「炎上しやすい話題・発言」5か条を挙げておいて締めます。

最近のツイッターはどうもトゲトゲしくていけねぇ。
震災以来ずっとそうですが。
僕もトゲトゲしくなっています。いけねぇ。

原発問題で、様々な矛盾と対立軸が先鋭化している今、
(被災地住民として、何か発言せざるを得ないと思っていた僕も、
放射性物質がらみのディスりあいで知人5人ほどと絶交してしまい、
この話題はもうやめようと思いました)、以下に挙げる話題は避けるべきなのでしょう。
皆さんリアルで会えば、いい人だったりするんですがね……ネットは難しいですね。
 

『炎上しやすい話題・発言』

1.口汚い言葉、不穏当・不謹慎な発言
(まぁ、これは論外です)

2.イデオロギーが関わる話題
(僕はどっちかと言えば左ですが、知人には右の方も多くて、
本当に言わぬが吉です。宗教や……実はスポーツもヤバいですね。
タイガースを罵ったら近場に熱烈ファンがいたりします。
「140字で宗旨変えなんて、ありえない」と、小林氏も言ってます)

3.人を見下す言葉、発言
(職業差別とかかな。結構受けた覚えがありますね……。あとは自慢やひけらかしでしょうね)

4.犯罪自慢、武勇伝を騙る
(これで破滅した有名人がいましたな)

5.価値観の否定、押し付け
(原発がらみで一番多いのがこれです。もう面白いぐらいどんどん縁が切れていきます)

 

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