アスマチコはアイドルだ

今から80年前から60年前にかけて20年間、新宿にあった
芝居小屋「ムーランルージュ新宿座」

東南口と東口の間あたり、旧昭和館の近くにポルノ映画館がありますが
あのあたりにあったらしいですね。

もちろん名前は、本家フランスのそれからの勝手なパクリですが、
ちゃんと風車看板もついていたので、それが新宿駅からはよく見えたと申します。

ここの存在は、数年前までビタいち知らなかったんですが、
新宿歴史博物館に行った時、かなり説明されていて、興味を持ちました。

で、そのドキュメンタリー映画がありまして、千秋楽直前に観てきました。
ハッキリ言って、カメラはド下手、録音も下手、スーパーは「なんだこのホームビデオ」という
アレなドキュメンタリーで、TVで流せるレベルに達してないんで、
ソフト化も放送も絶対ないと思いますが(だから観に行った)、

これは「丁寧に歴史をたどる」タイプの作品ではなく、
「執念で関係者をたどる」タイプのドキュメンタリーなので、
それはもうそれだけで、実は一種の面白さを持っていたりします。

例えば、空襲で焼け落ちたここを、戦後の一時期、2年間だけ
経営も含めて必死で牽引したのは、三崎千恵子(寅さんのおばちゃんですな)夫妻だったのですが、
彼女が鎌倉の老人ホームに健在だと解ると、その時代の所属歌手
(つうてもこちらも高齢で話すもおぼつきません)を連れて、見舞いに行ってしまう。

ここ何年もメディアの登場がなかった(というか登場させようがない)
歩けない三崎千恵子が、感極まって泣くシーンが展開される。
それは一種のビジュアルとしてのオドロキなんですよね。
監督が「仕掛け」なければ、こういう再会って、絶対ありえないですからね。
 

さて、往時の新宿で遊ぶ人に「めし、空気、ムーラン」(つまり必要不可欠で、あって当然)
と称されたここは、芝居はやるレビューはやる、の盛り沢山だったので、
当然各種人材の輩出は異常に多いし(引き抜きに寛大な興行主だったらしいです)、
菊池寛や金田一京助が常連だっただの、黒澤明が「野良犬」の取材に来ただの、
出ていた由利徹が月給が3000円高かった森繁を嫉妬してイビッたが、頭のいい森繁はあしらった、だの、
コク深い話は多いのですが、

特筆すべきは、ここに「日本のアイドルの完全な元祖」がいたんですね。
明日待子という人です。

彼女と同世代の李香蘭と原節子をして「日本のアイドルの三大元祖」とみなす考え方があります。

しかし、李香蘭は満州の超人気歌手で映画女優、原節子はもちろん映画女優ですな。

ところが、明日待子は決定的に違います。
毎日常打ち劇場のステージに立って、合間にポスターモデルをやって、
たまにレコードを吹き込みました。ナマで観ようと思えば、観られたワケです。

これが、今に脈々とつながる「アイドル」の完全な元祖でなくて、何でしょう。
他の二人とは、何かが決定的に違う気がします。
映画をテレビやネットとイコールで考えるとまた意味が変わってきちゃいますが、
今「距離の近いアイドル」がもてはやされていることを思えば、
明日待子は完全にそのオリジンでしょう。
 

で、この映画のハイライト。
……「明日待子は札幌に91歳で存命、しかも超元気」
なのであります!!

恐れ入ったなぁ。これが「ドキュメンタリスト」ですよ!
この調査力とか一点突破力があれば、正直カメラや録音の下手さ加減なんか
どうでもよくなります。それぐらいインパクトがありましたね。
 

明日待子は日舞の師匠をしていました。
あえて写真も動画も貼りませんが(作品で観た時のインパクトを失わせるのは
監督に申し訳ないので。検索すれば産経の記事が出ます)、
91歳にして言葉は明瞭、舞姿は美しく、背中はまっすぐ、震えも一切ない、肌つやはある。
もうビックリですよ。70歳と言われて何ら不思議はないです。

いや、70でも語弊があるな。
昔、さる用事でたまに老人ホームに行ったのですが、
60代でもう明日にも死にそうな人が多くて、衝撃を受けたことを思い出します。
かと思えば、日野原重明サンみたいに100歳現役、という人もいますよね。
この「老いてからの差」はどこから来るのか、よくわかりませんが……

明日待子が元祖アイドルだったという確証を持ったシーンが、もう一つありまして、
戦時中、学徒動員される大学生たちが、毎日何人も何人も集団でムーランルージュに来て
「明日待子バンザイ!!」をやっていったという証言の数々。

これはいわば「コール」ですよ。当時の芝居小屋ではありえないんじゃないですか?
歌舞伎や落語みたいな「声かけ」はもしかしたらあったかもしれないですが。

ボクは不謹慎であろうとなんであろうと、そういうふうに解釈しますが、
とりあえずそういう事態になったら、自分の好きなアイドル観に行って、
ナマで観てコールして戦地に行ったワケですよ。結構すごい話じゃないですか、これは。

アイドルに対するコール発生の祖でもあるんじゃないですか?
それが同じ日本で70年とか経てば、こうなるワケです。
http://www.youtube.com/watch?v=03Qm1wi9RR8

 
……ボカぁ当然、死んじゃってると思いますが、60年後のドキュメンタリストが、
今(2010年)のアイドルのドキュメンタリーを撮ったら、どうなるんでしょうかね。
「百田夏菜子は静岡に健在であった!」とかなるんでしょうか。
それを観れないのだけが少々残念です(笑)

 

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