殴れ殴れ 殴りまくれ

※今回は断言調で書くご無礼をお許しをば。
 

大体において昔から僕は、「八百長な格闘技」が大好きであった。
プロレスとか、格闘技でもリングスとか。広義では相撲も。
そこには「様式美」があるから、演劇的に美しいのだ、と思っている。
ガチ格闘技にはその美しさが、ない
(なのでUFCとか柔術系にはさしたる興味がない)。
 

しかし、である。ガチの美しさに気がついた。

十余年ぶりにボクシングを観た。
前は確か、友人の兄(4回戦ボーイ)の応援であった。
だが今回は、世界戦なのだ。

我が地元から出た、八重樫東というボクサーが、
WBA世界ミニマム級王者に挑むことになった。
4年前に世界初挑戦で、彼は顎を砕かれて(文字通り骨折し)負けている。
だがそれで心折れず、辞めずに4年もチャンスを待ち続けていた。
ボクシングは興行的要素が強いから、コンスタントにチャンスがあるワケではない。
よく耐えたものだ。

しかも、
僕の実家の市はおろか、岩手県からボクシングの世界チャンプが出たことは、
いまだかつてない。絶対死ぬまで出ないだろな、と思っていた。
出たらとんでもないことになる。歴史が作られるのである。

なので、万札をはたき(世界戦なので本当に一番安い席でも1万円)
観に行くことにした。

「スポーツ観戦野郎」というのは、何かの決定的瞬間を観るために、
日々を重ねている所があり、自分もご多聞に漏れない。
その瞬間を得た時には、麻薬的快感がある。
 

後楽園ホールには、まさに「あしたのジョー」的光景があった。
何度もここで観たプロレスとは、場の雰囲気が全く違う。
以前の観戦では意識しなかったことだ。

リングアナのスーツと声の張り、レフェリーの蝶ネクタイ、
ジャッジペーパーのやりとり、コーナーの椅子、カットマン、スポットライト……
何事も「ナマで見なければ、解らない」ことはある。
 

そして、世界戦のボクシングは「恐ろしい」。
僕が見ていた4回戦とか、一体何であったのだろう。
しかるにこれが頂点にして原点、なのである。高度すぎる殴り合い。

多くの文人とかがハマったのも、解る。
この種目はあまりにストイックで、結果がハッキリしている。
勝者と敗者しかないのである。言うなれば戦績には勝ち負けしかない。
しかも1対1の個人競技。両者にはすごいコントラストがあるのだ。
 

今回、八重樫の相手はムエタイで何百勝だかして転向したという、
ヒクソンみたいな経歴ネタを持つ、タイのベテランボクサー。

ターミネーターのテーマに乗って入場してきたが、
これがまた本当にそんな選手で。

打たれは、するのだ。八重樫のパンチは食らう。
後楽園ぐらいの狭さだと、パンチが顔面に当たる音も聞こえるし、
汗がバッと散るのもよく見える。

しかし、倒れない。タフなんてもんじゃない。人間サンドバッグだ。
決してダウンしない。それどころかスタミナもあり、
グイグイレンジを詰めて来て、最初優勢に立った八重樫も、
中盤は押し込まれる展開に。

さて……

TVで見ていた最近のボクシング世界戦は、「なんかつまらん」
という感じがあった。いわゆるアウトボクシング。
有効打を与えて、あとは逃げたりクリンチして勝つ、みたいな。
一番ダメな時の亀田ボクシングみたいな。

ところが、である。
そういうタフな王者といざ相対してしまった八重樫は、どうしたのか。
「足を止めての殴り合い」に出たのだ。試合後に彼は「怖かった」と語ったが。

客の僕も、ビックリしたなんてもんじゃない。
こんな世界戦、最近観た記憶がない。
昔の、あの辰吉対薬師寺とかの世界じゃないか。
それを生で、しかも同郷の選手で観ているとは!

試合は、ものすごい打ち合いになった。
右、左、フック、アッパー、ストレート、顔面ボコボコ……
二人はそれでも倒れない。
 

このへんで僕のリミッターが外れた。

「行け! 回れ! 止まるな! 打て! 死ね!!
殺せ!! 殺せ!! ブッ殺せーーー!!!!」
立って大絶叫。声が止められない。
後ろのガイジンさんまで「アシヲダシテー! ウテー!!」なんて
日本語で叫び始めた。

なんだこれは。僕は完全にイッていた。
そりゃ、同郷人に世界チャンプにはなってほしい。
千載一遇のチャンスだ。
にしても、これほどの応援って、したことない。
ロッテの阪神との日本シリーズの時も割と叫んだが、
ここまで声を出してはいない。

会場中がそんな異様な感じになっている。
世界タイトルマッチは家族も故郷も、下手すれば国まで背負うのだが、
それを個人同士の殴りあいでケリつける、ということのすさまじさ。
 

10ラウンド終了間際。歓声か悲鳴の狂騒の中、
八重樫のラッシュが優勢になった。
レフェリーが割って入って試合を止める。TKO。
テメェの地元から、ボクシング世界チャンピオンが生まれた。

隣の知らない奴と抱き合い、「ありがとぉーー!!!!」と叫び、
クーラーがきいた会場でかいた汗は、シャツが絞れるまでになっていた。
 
 

何だったんだろう、あの感じ。
今でも何かポヤーンとしている。
あまりにすごいものを観て、しかも歴史的瞬間に立ち会うと、
脳内麻薬が出すぎてしまって、こうなるのかもしれない。
人間はここまで殴り合って、倒れないでいることができるのですね。

付記
テレ東が試合をUPしてました。

 

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