磐石のキュウマン『グラゼニ』

野球漫画を略して「球漫」は、伊集院光が唱えた概念ですが、
やはりワンジャンルを追いかけていくと様々な時代の変化がございます。

球漫―野球漫画シャベリたおし!

いつまでも水島新司の時代だと思ったら大間違いでして、
(いや、水島新司は、それはそれで大リスペクトですけどね
……グワラグワラキィーン! ワーワー! あぁーあ!!)

何しろ、今は野球漫画でプロ選手の実名使えるのは、その水島新司が特例で
許されてるのみですからね。古田あたりが頑張ってくれちゃったせいで。

その水島センセイだってサッチーに、ウチのを描くなら金払え、とクソオヤジ呼ばわりされてて、
おいおい、南海ホークス時代のノムの知名度向上に、
どんだけ『あぶさん』が貢献したんだよ! とか思いますが、まぁそれはそれ。

ハロルド作石の名作『ストッパー毒島』や、たなか亜希夫の『クラッシュ!正宗』あたりで、
残念ながら実球団名や実選手の野球漫画登場は終わったと思いますが、
さぁ、ここからが漫画家の腕の見せ所だったのでございます。
 

一種のエポックメイキングは、『北斗の拳』の原哲夫のアシだった渡辺保裕が、
過剰な野球愛を、架空プロ球団でひたすら炸裂させた2001年の作品『ワイルドリーガー』でした。
ただ、この作品はあまりにも思い入れがこもりすぎて、リアルにするつもりが、
結果リアル野球と離れておりました。魔球もガンガン出るし(笑)
 

しかしそんな間、ゼロ年代に、プロのしばりのない「高校野球漫画」の方では
「ファンタジー野球じゃないのにオモシレェ」という野球漫画のラインが確立されます。

まず、ドラゴン桜でブレイクする直前の三田紀房が、
高校野球漫画史を塗り替える名作『クロカン』を放って、
このジャンルに風穴を開けました。

近作『砂の栄冠』も、鼻血が出そうなぐらいに
高校野球の暗部をこれでもかと描いて、メチャクチャ面白いです。

砂の栄冠(1) (ヤングマガジンコミックス) 砂の栄冠(2) (ヤングマガジンコミックス) 砂の栄冠(3) (ヤングマガジンコミックス) 砂の栄冠(4) (ヤングマガジンコミックス)

 

帯にいみじくも伊集院光が書いてましたが、やはり本来、この人の魅力は野球漫画にあります。
ハウツーやビジネスものでは魅力の半分も出てません。
 

そして『ギャンブルレーサー』で名を馳せた田中誠が、『実録!関東昭和軍』で、
暴力三昧のリアル野球校の知られざる実態をキッチリと。

また、主に戦術面を描いた『おおきく振りかぶって』は、その硬派なストーリーに比しての
軟派な絵柄でもって、腐女子と言われる方々にまで大ウケし、
まさかのやおい・エロ同人誌のネタとなるに至っては、高校野球漫画は完全に様変わりしたのであります。
 

そして、同じラインは、プロ野球漫画をすっ飛ばしてサッカー漫画に派生しました。

ツジタトモヒコ(ツジトモ)氏の他に類を見ないタッチと、ダレないストーリーが
漫画好きとサッカー好きを鷲掴みにし、一気に「モーニング」の看板連載に躍り出た
『ジャイアントキリング』がそれであります。

GIANT KILLING(2) (モーニングKC)

『ジャイキリ』の魅力はまたいずれ語るとして、
この漫画も、当然Jリーグの実名は使えなかったワケですね。

こんなにブレイクした今となっては「何でタダで許可しなかったのか!」と
Jの幹部は思ってるかもしれませんが。

ではどうしたか。『ジャイキリ』は「あくまでJリーグに似た」架空リーグをでっち上げ、
全国全20チームのチーム名からマスコット、所属選手まで完璧に設定したのですね。

「大阪ガンナーズ」とか「ジャベリン磐田」とか。
ところが、これが逆に、異常なリアリティを産みました。
ある意味、ホンモノのJリーグ以上の面白いリーグが、あの漫画世界の中にはできたかもしれません。
 

というのは、Jリーグでもプロ野球でもそうなんですが、フィクションを「現実」とリンクさせると、
架空のチームを優勝させたりしちゃうと、つじつまが合わなくなるし(『野球狂の詩』でよく見られたパターン)、
あと、漫画に比べて現実のペースは早いですから、看板選手は移籍するわ引退するわで、
次第にズレが生じておかしくなってくるのです。

あぶさんが還暦までスーパースターだったところが、その矛盾を具現してますな。
だけど、架空のリーグではそんな心配しなくていい。
肖像権肖像権言われて苦しんだ漫画家側にもたらされた、ケガの巧妙でありました。
 

そこでようやく『グラゼニ』の話です。すっげぇ長い前振り!

グラゼニ (1)

なんと、これも「モーニング」連載中の漫画です。
「グラウンドにはゼニが埋まっている」とよく言われますが、そこから「グラゼニ」です。
最近やっと単行本1巻が出たばかりですが、それを読んで「これは、追う!!」と決めましたね。
プロ野球漫画にも「リアルなのに面白い」モノが出てきた。エポックメイキングですわ。
 

話が、実にいい。
主人公は「スパイダース」の左腕中継ぎ、凡田夏之介。
高卒8年目26歳、年棒1800万円。独身。

「みなさん。この年俸、高いと思いますか?」てな問いかけから入り、
他球団の選手の年俸は全て覚えている、という特技を持つ夏之介が、
読者に語りかけ(!)ながら「プロ野球界のゼニのヒエラルキー」の中で繰り広げる
試合の悲喜こもごも、の話です。
 

ヘビーな話もライトに読ませるのは、独特な絵柄と救いのあるストーリーのなせるワザですね。
リアルな話だからって、決して『ナニワ金融道』にも『ミナミの帝王』にもなっておりません。

これも『ジャイキリ』に通じる要素かな。
 

自身もかつては球漫の書き手だったコージィ城倉が、
(「高森朝雄」のパロディである)「森高夕次」名義でもって原作を書き、
アダチケイジという、これまたツジトモばりに癖ある絵柄の新人と組んで、
いい化学反応を起こしています。

まさに、原作者VS漫画家でバチバチやらせる伝統の講談社イズムが、
バーリバリ出ているワケですが、

実は、かなり感心した点がもう一つ、あります。
そう、リアルな設定なのだが実名を使えない、という時にチーム名をどうするか。
 
「スパイダース」は、神宮球場が本拠地で、ユニもあからさまにスワローズのそれです。

……そして、セ・リーグの他球団!
G「ゴールデンカップス」=ジャイアンツ
C「カーナビーツ」=カープ
T「テンプターズ」=タイガース
B「ブルーコメッツ」=ベイスターズ

ドラゴンズだけは仕方なく「ワイルドワンズ」にしてましたが
M「モップス」=マリーンズ
 
登場してる球団を、全て「グループサウンズのバンド名」で揃えてきた!!
この発想は、なかったすね。全くの架空球団名でやられるよりも、スッと入ってきますしね。
「あぁ!! こういう手があったか!!」でしたねぇ。

権利者が、名前使うならゼニ払えと言うのも、まぁそれは権利者の権利としてアリですが、
本当に有能なクリエイターは、制限があれば、逆にその上を行くものを編み出します。
 

「東京スパイダース」背番号39、凡田夏之助
(名前は、「凡打」と、旧千円札夏目漱石の本名からでしょうね)の
「銭闘」(ストーブリーグのスポーツ新聞でよく見る見出し)を、長く楽しめることを期待したいです。
 

ちなみに、球場の広告は全て実企業のままでした。
こちらは「宣伝になるから」でOKしたのでしょうナ。

球漫―野球漫画シャベリたおし! 砂の栄冠(1) (ヤングマガジンコミックス) GIANT KILLING(1) (モーニングKC) グラゼニ (1)

 

 

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