『ペコロスの母に会いに行く』

驚きの傑作、であった。

映画『ペコロスの母に会いに行く』、のことである。

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普段、大変ご高尚な内容の「キネマ旬報」、ならびに「映画芸術」両誌の評価は、自分の中では全くの論外なのだが(共通しているのは、テレビ派生映画は一切評価に値しない、という部分のみ。まぁ、かと言って、カウンターがメジャーに昇格した、という異常事態である「映画秘宝」の礼賛記事もほぼ信用していないのだが、これはまた別の話)、その両誌でダブル年間1位という珍事、もとい快挙を達成したこの作品が、どうにも引っかかっていた。

そんな中、地元のシネコンで短期上映された際に、ウチのオフクロが激賞(ポン・ジュノ作品の良さを理解してるので、シネマリテラシーは多分高いw)、という事態も発生し、気になって止まらなくなって、まだ続映されている、渋谷はイメージフォーラムのレイトに滑り込んだのである……。時に、情けなくも今年の初映画館……。
 

……(゚д゚)!!!

ビックリ、した。いや、ビックリなんてもんじゃない。これ、なんと監督は森崎東、御年85歳時の作品。言わずと知れた松竹の偉大なる職人。『男はつらいよ』好きの間では、ピンチヒッター監督を務めていることでも知られるが、まさに「人情喜劇一筋」人生である。その作風が、ブレていない。全く、ブレていない。この高齢にして。
 

原作は、認知症の母と中年息子の日常漫画。撮りようによっては、救いもなく重くなるのは目に見えている。ところがまぁ、笑わすし、泣かすし。完全に「古きよき人情喜劇邦画」文法に則り、破綻なく、しかも現代のガジェットやネタも巧みに織り込んでくる。

そして、ロケ、セット、現在、過去のミルフィーユ構造の美しさ! 息子と母の記憶の中で絡み合う過去、現在。時代が変われば役者も変わるのだが、その流れに、全く違和感がない。 

息子の「ゆういち」は、不意に最後の方で言う。「ボケるとも悪かことばかりじゃ、なかかもな……」。それは果たして、ナゼなのか。その理由は、ラストの演出で明らかになる。それまでの幾重もの伏線を、気持ちいいぐらいスムーズに吸収して。ベタにして美学(あぁ、森崎演出の真骨頂だ!)。素晴らしい。 
 

また、効いてくるのが、映画ならではの「余白」の部分。テレビドラマ派生映画しか観ていない莫迦な輩の中には、「全てが説明されて」いないと、駄作とかのたまうトンデモナイ奴までいると聞いて、衝撃を受けた昨今なのだが、森崎作品には当然ながら、映画的な「間」がある。

さぁ、これは何を暗示しているんだ。キャラはここでどう思ってるんだ。一体ナニが見えてるんだ。ということが「ご丁寧にいちいち説明」せずとも、ビシビシその「間」の演出から伝わってくるのだ。これが、日本の映画よ!! まぁ、この映画でもそれを感じ取れない奴は、そもそも「映画」観る資格なんかない。
 

この題材を、笑って泣ける王道人情喜劇に仕立てた森崎演出に、拍手。そして、89歳にして主演女優(!)の赤木春恵の痴呆症(今は認知症と言うべきなのであろうが、あえて)演技はとてつもなく、これはもう奇跡的。

かつ、息子役の岩松了を始め、原田貴和子・知世姉妹ら(実は森崎監督もだが)、長崎出身者の芸達者で脇を固め、ほぼ現地ロケで仕立てた「純粋・長崎ご当地映画」である部分も、素晴らしい。要するに、ご当地インディーズ映画なのである。

こうなると、もう、ベタなタイアップ看板映し込みやら、相変わらずの竹中直人の過剰演技まで「あぁ! これぞ邦画!」と、許容できてしまうという不思議さなのだ。
 

異論があるのは承知で言うが、小生はもう「近年の」宮﨑駿や山田洋次作品を、評価していない。晩年の黒澤と同じなのだ。「好きなことを好きなように周囲がやらせてくれるようになった状況下」で甘えれば、老人監督は、そこでアレになる。エンドマークである。今世紀に入ってからの鈴木清順などはもう無残に過ぎて、ファンとしては辛かった。

しかし、まだ枯れていないのが高畑勲、大林宣彦。そして……最高に枯れていないかったのが、85歳・森崎東だった、という奇跡! これについては、いずれ徹底的に論じてみたい。
 

閑話休題。企画段階では、この映画、まぁ当然のようにどの映画会社にも局にも断られたという。そこらへんがもう「終わってんじゃん、邦画界」なのだが、そこをなんとFBメインのクラウドファウンディングでゼニをかき集め、このリッパなキャストで映画化してしまう凄まじさ! 最後には、きちんと評価もついてきた。実に現代的な好例だったとも言える。
 

大林宣彦の『この空の花』や、去年小生が評価した『しあわせカモン』や『飛べ!ダコタ』etc……なんか「いい邦画」が、もはや、インディーズ、かつ、ご当地映画からしか出なくなっている、というのは皮肉だ。

ただまぁ、これもあえて言うが、今、大手映画会社の配給する邦画ばかりを見ていたら、きっとアタマがどんどん悪くなる。それなら、映画館なんか行かないでテレビ観てる方が、無料で100倍いいエンタメが観られますよ。

インディーズ映画には、そりゃ救いようもなく酷いのもあるが、今回のように優秀な監督&スタッフ(これも実は豪華だった)が噛んでいれば、「当たり」の率は限りなく高くなる。大手映画会社の映画じゃないから、パブが地味だから、小屋の数が少ないから、ダメな映画、ということは、断じてない! ということを声高に叫び、本稿を締めたい。

 

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