『スティーブ・ジョブズ』

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「天才」とか「偉人」とか言われる人の伝記映画には2タイプある。

虚、虚、虚で、本当に聖人君子としてのファンタジーを構築するか、
それとも、「負」の面も率直に描くか。
 

このジョブズ伝記映画を観て、小生はとっさに、「不世出の天才」同士としての
我が地元のレジェンド、宮沢賢治(感情の起伏には大いに差がありそうだが)を
連想したのだが、思えば賢治の伝記映画にも、ファンタジーの東映版と、
変人賢治が全開(新藤兼人脚本)の松竹版があった。

映画の出来としては負けていたが、では「どちらが真実なのか」と言えば、
断然、松竹版なのである。

そういう意味では、この映画のジョブズはえげつない。つまり「負」の姿が全開だ。

病的に強気かと思えば、いきなり泣く。高慢ちきで非常識。

昔の傑作ビデオスルー映画『バトル・オブ・シリコンバレー』では、
ジョブズ対ゲイツ、という図式を強調させることで話を作っていたが
この映画でのジョブズの「対ゲイツ抗争」は、一度だけ。
怒って電話をかけて、まくしたてるだけである。
ライバル、ゲイツの姿は、直接には描かれない。
 

そういう意味では、本作には「外敵との抗争」という
映画的なカタルシス要素は、ほとんどない。
大部分を占めるのは「内なるものとの戦い」だ。
それはジョブズ自身と、でもあり、アップル社の内部と、でもある。
 

ガレージ企業での創業メンバーとの日々、そして拡大を経て、
ジョブズは彼らを見捨てていき、最も必要とされていたはずの
片腕たるウォズニアックすら、ついて行けないと泣いてアップルを去る。

ジョブズはビジネス嗅覚の鋭さがありながら、かたや
己のポリシーを反映させうるマシンなら、採算も納期も度外視で開発にのめり込む、
パラノイアなワンマンとして描かれる。まぁ、これ真実だったんでしょうけど。

そして、あっさり他の技術者たちも「使えねぇ」「気に食わねぇ」と
クビにしまくった挙句、やがては自分が追放される……
  

話を戻せば、カルト仏教のお題目を、花巻の町中歩いて唱えて回ったという、
宮沢賢治の「裏の顔」とダブるのが、ジョブズのそういう部分だ。
同じ岩手の、実はボンクラ借金王・石川啄木しかり。
実際の性格はアレでも、産んだ作品があまりにデカいので、
「信者」が生まれ、やがて「教祖」化する。

アップル社のガジェット、というものにも多分に「信者」が多いため、
まぁ、今回見た映画館でも、Macbook持ってきてこれ見よがしにいじってる奴とか、
上映後にロビーで、誘って連れてきたであろう若者4~5人に、
熱く「ジョブズ流の創造術」を語ってる(笑)人生のの先輩とかが、いた。
 
ただ、思うに、そういう御仁……徹夜でアップルストアに並んじゃうような人には、
実はこの作品は、向かない。賢治の伝記映画・松竹版と同じ理由で……である。

アシュトン・カッチャーが、まさに憑依状態でもって活写しちゃってるのは、
あまりにも真実なクソ野郎ジョブズの、美化しない姿なのである。
 

しかし、だ。歴史的にジョブズがコンピューター業界を変えた男、
そしてデジタルデバイスを劇的に変えた男であることには、何の疑いもないため
(小生とて、最初に自宅でいじったPCは家人が買ったマックだったし、
いまだに携帯音楽プレイヤーはiPod Classicだ)、
アップルコンピューター史、そしてジョブズ個人史として、
この映画の放つ魅力は、十分にあるのである

間違いなく「信者の抱く『期待』としてのジョブズ偶像を破壊する」作品ではある。
しかし、たかだか60年弱の人生で、ここまで劇的に、ひとつの業界で
大いなるブラフと革命を繰り返してきた男も、いないワケである。

最低男だったのか、世紀の大天才だったのか、それは観た人がジャッジすればいいが、
もしかしたら、本当の大天才というのは、そういう「狂気と執念」が
内面に一緒にある輩……なのかもしれない。
 

この映画を観ると、つくづく感じる。ジョブズはキ○ガイではあったが、
まぎれもなく創造者ではあった。

カネ儲けの才能も多少はあったかもわからんが、
それだけがうまい奴は「天才」ではないのだ。

「コンピューターをマニアのものではなく、クールに、そして家電のように」という考えで、
「作りたいものを作った結果」が、最終的には受け入れられて、儲けに結び付いた……と言える。

もし、このジョブズの「天才の発想」的要素がなきゃアップルは、
デルやHPと大差なかったろうし、「ブランド化」もなしえず、
ましてや亡くなった創業者の話が映画化されることも、なかっただろう。
 

そういう意味では、パンフ等に日本の著名な拝金主義ITベンチャー社長たち数名
(孫の弟やらホリエモンやら)が「感動した」「素晴らしい」的コメントを寄せていたのは、
実に滑稽ではあったのである。悪いが、根本的にアンタらとジョブズとは、違うぞ。

 

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