『はじまりのみち』

人生は短い。なのでクソ映画を観ているヒマはない、と
映画好きの小生ですら思う昨今なのですが、

まぁここで言うクソ映画とは、ぶっちゃけ、
今のテレビ屋邦画全体のことであり、それなら、
ハリウッドのバカSF大作でも観てた方が
100万倍マシなのですよ。
 

1年前、小生は「もはや、今、純粋な『邦画』演出の
センスを持ちえる『映画監督』は、原恵一と細田守しかいない」と
断言したのですが、

まぁ……つまるところ、アニメ業界にしか、
もうそういうセンスの持ち主はいないのであって、
実写ではインディーズで尖った若手はいても、
メジャーに来りゃまるで骨抜きにされるので、話にならんのですな。

過激なの撮れる人はいましょうが、別にそういうのばっか
観たいワケじゃないですし。
あとはテレビドラマ屋が撮ってますから、勝手にしろという感じです。
 

さて、翻って原恵一と細田守の両監督ですが、このアニメ映画の
二大巨頭を、小生は「感動マエストロ」と呼んでおります。

作品を観りゃ、確実に涙腺崩壊・鼻水決壊。
映画館でワンワン泣くことが、最初から保証されている。

それも「さぁ泣きやがれ!」演出ではなく、日常の演出の中で……
という力に敬意を評して称号なんですが、それこそが、
彼らが、実はまっとうな「邦画演出」の後継者たるなんたるか、の
由縁なのでありますな。
 

細田監督の方は……M没後……を完全に見据えた
新・日テレ10年計画(適当)の中で、きちんと巨大資本で
『おおかみこどもの雨と雪』を成功させておりますので、
いまだ真相はファンにも藪の中……の「ハウル降板事件」を思えば、
いろいろ思う所がありましょう。

もはやライバルは、ジブリがどーしても後継者にして
日テレパイプを保ちたい庵野監督のみ、ということで、
お互い気兼ねなくバトって頂きたいもんですが、
さて問題は原監督、でありまして。
 

前作『Colorful』は、サンライズの主導でこの原作を! という
オドロキもさることながら、やはり、卓越したその演出力でもって、
我が友人K氏、S氏ら「プロのアーティスト」達からも、超大絶賛の嵐。
小生にしても「これは、俺の話やないか……」とまたしても
ボーロボロ泣いたのでありました……

ところが、これ、いわゆる「フジテレビ映画」のくせして、
そのあまりのパブ打たなさっぷり&上映館の少なさで、
当然ながら興行的には不発もいいとこであり、
我が周辺では、どこにも届かぬ「フジのバカ!」の
大ヒートを生んだことは、いまだ忘れえぬ出来事であります。
 

まぁ、しかし。
その前後からジワジワと「原恵一の木下恵介リスペクトぶりは
半端ない」ことは知れ渡っておりまして……

そこで今回の松竹、ですよ。偉かったスね。
名匠・木下恵介生誕100年の記念映画
『はじまりのみち』に、原監督を「実写監督」で起用して、
ぶつけてみたのであります。
 

木下恵介という人は、同時代の巨匠と比べれば
不当なぐらい低評価な映画監督であります。
時代劇やらせりゃクロサワにだって引けはとらんし、
『楢山節考』の映画化は、今昌なんかよりずうっと早いんです。

日本初の長編カラー劇映画だってこの人ですし、
ロードムービーもホームドラマもなんでもござれ。
テレビドラマ製作では、テレビの歴史に燦然と光輝くワケですが、
やはり「テレビに行きやがったヤツ」や「いろんな撮り方をしたヤツ」と
とられるんですかねぇ。

小生的には、評価はクロサワと五分。いや、むしろ天皇でない分、勝利。
小津には業界への功績で勝利。今昌あたりは当然、足元にも及ばないんですが、
まぁ、それにしては無視されてました。

それがようやく日の目を見るか……というタイミングで、
記念映画に超・木下リスペクトであり、また、現在の
映画界の若手・中堅の誰より「多分『邦画』を演出できる」
原監督を起用した。これはすげぇと思うんですな。
 

だって、考えてもみましょう。
アニメで名声を得たヒトが、おだてられて実写映画に色気を出して
うまくいった例は、全く、ひとつも、一切、ないんですね。
庵野、押井、大友、樋口、ヤマカン……全滅でしょ? 
死屍累々なんです。

だからまず、よくこの話を通しましたよ。
そこが偉い。
 
結果、どうだったか。
大成功。小生的には、日本におけるアニメ出身・実写行きの監督で
初めての当たりで、「いや、すげぇ!」でしたな。
アニメと実写はピッチャーとバッターぐらい違うので、
初めて「二刀流」が成功した、ぐらいのことは言えると思います。
 

まず、演出術に一切の狂いなし。
開始5分目の何気ないシーンで、早くも涙ボロボロ。
あぁ、感動マエストロ健在であります。

地味~な話なんですよ。それを飽きさせない。
カメラワークの作り方(動く所と動かない所)と、
要所でのビューティー(雲とか川とか)の混ぜ方&
感覚として気持ちいい秒数は、実写というよりは、
アニメのコンテの切り方による手法です。
これがまた、凡百の実写監督より遥かに上手い。

当然っちゃ当然のようですが、しかし、今までのアニメ系監督は
実写進出の際に、それを蔑ろにしてましたよ、確実に。
 

※戦時中、映画『陸軍』で、出征する息子の行進を延々と追いかける
母親の姿をラストに描いたため、軟弱だと軍部の怒りを買い、
次回作をブッ潰された木下恵介は、城戸・大船撮影所長
(映画史には必ず出てくる人物ですナ。けどドラマで見たのは初かも)に
辞表を叩きつけて、静岡に帰ったのでありました。
これからは本名の「正吉」に戻ろう、と。

しかし戦火は迫る。脳溢血で体も言葉も不自由になった母を
どうにか一緒に疎開させようと、リヤカーに寝かせたまま、
兄&雇った便利屋と、猛暑&雨中の峠越え60キロを
敢行したという、「数日間の実話」をもとにした話であります。

ORG_20121205000201 
この実話への、「虚」の混ぜ方が、上手い!
もしかしたら「本当にこういうことがあったのかもな」
「それが後の作品につながったのかもな」という要素が描かれ、
木下のクリエイターとしての再生を促して行くのであります。

130329_hajimari_main
……このシーンで、木下は指で作ったフレームに、何を見ていたか?
ニヤリとしますよ。

そして、クライマックス。
何気ない日常のシークエンスですが、
ここで泣けなかったら、ウソでしょう。
田中裕子の演技ポテンシャルをも見せつけられるのですが、

……小生のような一般ワーカーはともかくですな、もし、
このシーンの流れを現「クリエイター職」、
つまり、自分の創造でもってオマンマ食ってる人が観ても
「何も心に来なかった」のなら、今すぐ廃業せぇ、
もしくは豆腐の角に頭ぶつけて死ね、ぐらいのことは言えます。

それぐらい、キますね。
もう、涙鼻水がすごいことに。
 

お見事! 「実写新人」原恵一監督。
尊敬する木下監督に何よりの手向けであります。

件の『陸軍』を始めとした木下作品の引用も、またね……

よくぞここまでインサートしたな、と思うぐらい多いのですが、
それは原監督の木下監督愛がなせる業ですし、
逆にそれが効きまして「あぁ、ちゃんと観てぇな、これは」
ぐらいのことは平気で思わせます。

なので、記念作として以上に、再評価促進作としても
作用しますよ、これは。

 
惜しむらくは……

今回もねぇ! またしても小屋が少なすぎ!!
製作委員会に大会社が入ってねぇと、こうも違うのか、と
ギーリギリギリでありますが、もしお近くでやっているなら、
毛嫌いせず、どうか観ていただきたいですね。

そして、原恵一&木下恵介の魅力を一緒に感じて頂きたい、と。
とりあえずクソ映画観てるヒマがありゃ、まずこれを観ろ、と。
世界よ、これが邦画だ。……ようやくそういう思いであります。

 

Facebook Twitter More...
Comments

No comments yet.

Leave a comment