「良店」について考える

東京にて、一軒家・テナントタイプで新規開店の飲食店が10年続いたら、もうそれだけで「名店」を名乗る資格は十分にあると思う。

「人口が多いから、田舎と違って飲食店はやっていけるだろう」というのは激しい間違いで、味も値段も雰囲気もどうってこともないのに、10年以上続いてる店というのは、よーく考えれば実は「店のあるビルのオーナー」であることが多い。つまり、店は道楽、もしくは代々の家業だからしゃあないけどやってる、のどちらかなのだ。
 

さて、過日、プロレス&スター・ウォーズ仲間(小生が地元で働いた時「ここの連中はサブカル偏差値が低すぎる。誰とも話が合わねぇ……」と絶望していた時に、光明になってくれた方。以来、干支一回りもの付き合いとなった)の先輩が、ソレガシの弟の凱旋帰国(プロレス的物言い)を歓迎する宴を開いてくれた。で、その時、小生はザ・グレート・カブキさん(俺が散々振り回されたあの覆面の人ではない)の居酒屋を再訪する機会を得、あることをハッキリ認識するに至った。

カブキさんの店は、10年以上続いている。……そしてまた、ボクの敬愛する高円寺の某店、ここがおよそ8年半。この「年数」の達成は、どんなに難しいことか。
 

きちんと長く続く店には、いったいどういう要素があるのか。カブキさんの店を例に考えてみる。まず、普通にうまい。激安ではないが、無闇に高くはない。他にない独自のメニューがある……これが基本としてできている他、店内BGMはプロレスの選手テーマ曲各種だったりもする。要するに「客のニーズを解っている」のだ。日米を股にかけて一時代を築いた名レスラーのカブキさんは、一段落つくと厨房から出てきて、客の話に加わり盃を交わし、集うクソマニアどもの濃いプロレス質問にも嫌な顔ひとつせず、逆にたくさんの秘話を披露してくれる(この場合のトーク内容というのも、極めて重要な要素である。勢い、面白い「裏話」が多くなるワケだが、そこでの話をブログやツイッターで書き散らす輩は、そもそもこういう店で飲む資格はない。ここでの話の内容は「直に足を運び」「金を出して飲み食いした」者だけの特権なのだ)。

オマケに、写真もサインもなんでもござれ。つまり「客がこの店に求めたニーズ」にはキッチリ応じ、更には料理の質でもコスパでも、その上を行って見せたのだ。そんなカブキさんは、つまり……レスラー人生のセミリタイアと同時に、「サイドビジネス」じゃなくて「別なプロレス」をする覚悟だったのじゃないかな、と。だから、うまくいってるのではないだろうか。

そう小生が思うのは、これは言わば毎日「酔客とプロレスしてる」ようなもんだからである。多分、開店以来十数年間、一見の客からは毎度同じような、馬場がどうだ天龍がどうした、といった濃い質問をずっとされながら、でもそれに答え続けてきたのだろう。小生も……しちゃったけど。ただ、そうしたある種のサービスと飲食のクオリティーを保った結果、ミーハーで単に興味本位にレスラーの店に来た客は、ガチで店に惚れ込み、通うようになっていったのだ。「この店絡みで5~6組のカップルが結婚したが、まだ誰も別れてないのが自慢だ」と、カブキさんは笑っていた。
 

元来、カブキというレスラーは開拓精神の人である。リングネームがそもそも全てではあるが、「ペイントレスラー」というギミックを世界初で編み出したのだし、何より今、アメリカ人が抱く「ジャパニーズニンジャ」だの「サムライ」に対してのパブリックイメージは、元はと言えば彼の衣装がもたらしたものである(金属板を縫い込んだ頭巾状のものを被るニンジャというのは、実際にはいないワケであるが、彼が作った衣装がアメリカでのニンジャ像を固定した)。それはいいとか悪いとか言うレベルを超越した、氏の完全な「発明」であり、それがアメリカでのブレイクにつながった。ちなみに、これまた元祖の「毒霧攻撃」に関しても、すっごい美学があるのだが、それは興味ある向きは実際に行って、カブキさんに話を聞いてみれば良いと思う。
 

さて、小生は「有名人がやってる店」に行ってみるのは、ミーハー興味で好きな方だが、そういう店って実は……ひどいのが多い。本人がいても厨房で調理ばっかりしてる……のはまだ仕方ないと思う。それより多いのは「単なるオーナー」で、店になんかいやしないケース。まぁ、八割方、期待は裏切られる。藤本美貴の店が潰れた? 当然、でしょうね。最初は興味本位で行く客もいようが、二度目はあるまい。
 

翻って、「有名人の店」ではないが、小生が大好きな高円寺某店。マスターと奥さんの、いつも真摯なスタンスも素晴らしいが、何より、基本として食材が新鮮だし、料理の質が高く(簡単に言えば、うまい)、しかも安い。かつ、珍しい魚が山陰直送で届くので、東北人にとっては見たことも聞いたこともなかったいろんなモノを、ここで「人生で初めて」食べさせてもらった。しかも、DJでもあるマスターは、魚をさばき焼物を炭にかけながらも、スッと店内のムードを見抜き、その「先を行く」曲や客の話が弾みそうな曲をかけてくれる。これも、サービス。曲で会話も弾み、こちとらの飲みはどんどん楽しくなる。昔から居心地が本当にいい。某アイドルのファン達が自然に集っているのも、十分頷けるのだ。

小生は、この店とカブキさんの店を通して、ある結論に達した。……もし、ある種の「同好の士」が集うような店ならば、まず「気軽に」行けて「居心地が良く」ないと意味がない。その上で「味」のファクターを文字通り加味しながら、客は贔屓にする店を選択している。東京の飲食店には、実はそんな高いハードルがあるのだが、この両店はそれをクリアしている。そんな貴重な店だからこそ、どちらも本当に末永く続いて欲しいと願う。ついでだが、最近では、何度か行った現役スーツアクター氏がマスターの、道玄坂の某特撮系バーにも、ゼヒ末長く頑張って欲しいと思う次第だ。
 

客とは非常に勝手なもので、自分にとっての「いい店」には、誰だってなくなってほしくないと思ってはいる。ただ、そんなに行かなかったのに、なくなる時に「残念だ」「すごく悲しい」つっても、それはどうしようもなく不毛なのである。

この、何でもHDDで保存できちゃうような世の中で、それでも各種カルチャーのファンが、「現物」としての「ソフトやグッズ」を購入することで、ある種の心意気を示しているように、自分に居心地のいい店には、ゼヒ通おうではないか、ご同輩。
 

とまぁ、偉そうに語ってみたが、自分の各店への通い頻度も、決して褒められたもんじゃない。実際に潰してはまずいが「身上潰すぐらいの気持ち」で、好きな店には通うべきなんだよなぁ、と、自戒も込めて……思う次第だ。

 

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